アイザックソン著『スティーブ・ジョブズ』を読む

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米アマゾンでは、10月からの2ヶ月で、既に年間売り上げNo.1となった(但し部数は非公表)、ウォルター・アイザックソン著の伝記「スティーブ・ジョブズ」。

日本でも100万部を超えるベストセラーになっていますが、アップル(コンピュータ)」との関わり方によっては、読む前のこころ持ちが異なります。

この本に対して、次々ヒット作を出す経営者のノウハウ本とか、人となりを謳い上げる絶賛本的な期待をしてしまうと、失望することになるでしょう。

それでも、たとえアップルやジョブズにあまり興味がないとしても、この30年の間に、パソコンからみで生きてきた人には、お薦めしたい本です。

改めて思うのは、ジョブスという異才のみに許された行動は、時代の流れと彼によってのみ、成功につながったもの。模倣は不可能ということ。そして極端な言動を受け入れるには、理屈を超えたシンパシーが必要です。

尚、本日夜10時から、NHKTVで、アイザックソン氏も登場する特別番組があるようです。
以下、ネタバレあり。ご注意。

言うまでもなく、「ユーザー」としてMacやアップルの製品に関わると、その時代のハートを掴む驚きのインタフェースとデザインのユニークさに、誰もがワクワクした事でしょう。

コンピュータとは無縁だったDTPやデザインの世界で、デザイナーを技術者にもし、活躍分野を広げた功績には、感謝しきれない人が無数にいると思います。

しかし、取引先やビジネスパートナーと見ると、話は違ってきます。ジョブスには心酔しているけど、あの会社はなんだ、ということがあって、いわゆる唯我独尊ぶりには、別の意味で驚きの連続でした。今は、違うかもしれません。

知人に、ほとんどエバンジュリストのような男がいて、個人でNeXTを所有するほどだったのですが、マックのソフト開発者になった時、様々な失望を味わい、今はWindowsの世界にいます。なぜでしょうか。

それは、本書にも出てくるキーワード、「クローズ」。

衝撃的な言葉として、

「完璧なマックのハード・ソフトの世界を、どこの誰だか知らない人間のアプリに汚されたくない」

というものがあります。これでは、ソフト開発者にとって様々な失望的な事があるのも、理解できるというものです。

アップルの製品は完璧だから、余計なものは足すなという事です。シンプルでクローズ、それが美しいと。

現在のiPhoneやiPadのいわゆるアプリも、与えられた条件の下、アップルの管理下でのみ、認められるというわけです。

この仕組みもジョブズが、アップルの世界を崩さない中で、ユーザーをつかまえる方法として考えたと、本書にあります。

有名な「ハングリーであれ、ばかになれ」の元原は、若い頃見た旅行会社のポスターにあった言葉。パソコンの世界からiPodに打って出るきっかけも、追い出した取締役のアドバイス。タブレットPCの着想は、マイクロソフトから出たがっていた技術者の売り込み、等々。

「革新的」と評されるアイデアは、実はすべて外から得たもの。それをあたかも自分のもののにようにしてしまうのも、彼の才能。

しかし、だからといってジョブズの功績が曇るわけではありません。着想を誰もが驚くインタフェース、練り上げられたデザインを添えて、人を魅了するプレゼンによって、現実の製品にできたのは、ジョブズの存在があったからこそです。

本書のIでは、ヒッピー時代のジョブズが修行僧のような格好で、風呂に入らないので臭く、しかも裸足で、企業にマックの売り込みに来た、というような表現が、何度も出てきて、彼をカリスマ視している方には、いささか不愉快かもしれません。

しかし、ジョブズと彼の妻自身が、すべてをありのままに、子供たちに真実を伝えてほしいと、アイザックソンを信頼し、3年をかけて取材して、それに応えたものですから、表面的な批判では書かれていません。

つくづく思うのは、アメリカでは、売り込みに来たのが、ヒッピーだろう誰だろうが、革新的なものに投資し、受け入れる余裕があるという点です。そして。くっついたり、離れたりダイナミックな取締役会の様子も面白い。

また、ジョブズは日本とも関わりが深いようですね。有名な禅宗への関わりのほか、初期マックにソニーのディスクドライブが使われていたり、iPodには東芝の小型ハードディスク。

さらに晩年には、トヨタのカンバン方式を見学に来たということですから、ジョブズをステレオタイプで捕らえている人は驚くことでしょう。

人間的な部分では、苦楽と共にした仲間や信頼できる部下でさえ、罵倒してしまい、孤独なカリスマだったようですが、養父の忍耐強い愛情と、もうひとりのスティーブ、初期マックのOSを書いた、伝説のプログラマー、ウォズニアックのやさしさが、ジョブズの人生を支えたのではないかと思います。もちろんファミリーもですが。

ジョブズを好きな人は、まずもって、この二人に感謝しなければなりません。「ジョブズをジョブズにしてくれてありがとう」と。

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