熊谷達也著「鮪立の海」(しびたちのうみ)を読む

熊谷達也著「鮪立の海」を読みました。

著者の作品には、マタギや猟師や漁師など、自然と格闘する人々を明治以降の時代背景と共にダイナミックに描く「時代もの」、現代社会の自然と人間の共生、出版界の内実などがテーマの「現代もの」、著者の自伝的な青春グラフティーや震災文学的な「仙台・気仙沼もの」があります(分類はオレw)。

気仙沼がモデルの港町、「仙河海」をひとくくりにしたいのが、出版社の意向のようですが、震災とか、気仙沼という地域性を超えて、災害、戦争など理不尽さに苦しみながらも、自然と共に、人生を生き切る人々という、普遍的なテーマを著者は追っていると思います。

さて、この作品は、「仙河海」を舞台にした「時代もの」で、昭和の戦争前から戦後まで、父親のような人望と腕のある「名船頭」をめざす男の物語です。

ストーリーは、前作「浜の甚平」の次の世代の話です。できたらこの順番で、読みたいところです。

以下、ネタバレあり。三陸の港町、仙河海で、父のような漁師を束ねる「船頭」めざす主人公は、船頭としての知識、人望、胆力を磨いていくのですが、そこには戦争という時代背景があります。

人望のある父や、一流の航海士の兄のような漁師にあこがれる主人公ですが、最初は失敗ばり。それでも、港町の仲間や先輩たちに見守られながら、次第に成長していきます。

その中で、愛する人たちの理不尽な死。また、遠く離れた町の女と、運命的な出会い、別れ。

尚、この本では、戦時中、民間の漁船を海軍の偵察用の軍艦替わりとして、ほとんど装備のないまま、敵近くの太平洋に航海させるという、特攻隊、人間魚雷回天、対戦車特攻土竜と同様、正気と思えない日本軍のリアルな歴史が記されています。

著者は、仙河海こと気仙沼で繰り広げられた、ひとびとの生きざまを描くことで、さまざまな苦難を乗り越えてきた、祖先たちに想いを馳せ、今尚、苦難と戦う地域に人たちに、勇気を持ってもらいたいと願っているのでしょう。

例によってひとりの人生を、時代背景とともに、いきいきと描く物語。分厚い本ですが、一気に読めます。

熊谷達也 著  『鮪立の海』 
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発行:2017/03/28 出版社:文藝春秋 紙価格:2106円
ジャンル:ミステリー 形態:単行本