太宰治原作、南三陸町などでロケを行った、映画「パンドラの匣(はこ)」を見てきました。宮城先行上映で、全国公開は10日から。監督・脚本・編集は富永昌敬さん。
戦後の結核療養所が舞台ですが、戦後焼け跡闇市派とは対極にある明るい話です。終戦直後の日本と若者に、あえて「希望」を表現しようとした原作を活かすために、柔らかに射しこむ光や、清潔感、明るい画面をきれいに出しています。現存する廃校をロケ場所に使ったそうですが、木造の建物もいい感じです。
何より、この映画の要である女性二人を演じた、映画初出演の川上未映子さん、仲里依紗さん、共に良く撮れていました。
特に、芥川賞を熱望して取れなかった太宰に、原作中で、「凄いほどの美人」と表現されている女性の役を、芥川賞作家の川上さんが演ずるのですから、失敗は許されません。菅野美穂のお姉さん風といったら怒られるかな。
そして一番の見所は、二人の女性の、一切露出することなく立ち上らせる色香というか、匂いのようなものをうまく演出しているところです。
尚、主演の染谷将太君も見た目の幼い感じよりは、設定に近い20歳くらいの男の感じは、出ていたと思います。男はどうでもいいとはいうものの、ぱっと見が子供な感じなので、大丈夫かいなと思っていたのですが、いい意味で裏切られました。中々の演技力です。
以下ネタバレあり。
さて、原作をまだ読まれていない方は、まず先に、映画を見た方がいいでしょう。自分も先に映画をみて、助手さん(看護婦)と患者の間の合言葉の、
「やっとるか。」
「やっとるぞ。」
「がんばれよ。」
「よし来た。」
のフレーズに新鮮な驚きを感じたり、下賤な想像をしたりして面白かったです。
但し、監督が脚本も担当していて、原作とは重要な設定を変えています。その異同だけをどうこういっても、映画の価値は変わらないので、まずは映画館へ。
原作では、手紙文の形で、主人公が学生時代の友人に、療養所「健康道場」での生活を語る形で綴られていますが、映画では、療養していた窪塚演ずる「つくし」が退院した後に、彼に宛て、新しく道場に来た看護婦の「竹さん」(川上さん)の事を書く形になっています。
また、なぜ看護婦(助手さん)や患者があだ名でよばれているか、の説明が省略されていますが、自分的には、これは面白いエピソードに満ちているので、映画でも入れてほしかった。
さらに、「竹さん」の嫁ぎ先が違うし、その前に主人公「ひばり」と絡むシーンも省略されたので、太宰先生も「やっとるか」と思っているかもしれません。が、全体のエッセンスや主人公が二人の看護婦に懸想する雰囲気は、十分出ていたと思います。見る価値はあります。
太宰の原作についてですが、文豪に対して恐れ多いのですが、延々と手紙文で語る文章が澱みなく、軟派な登場人物の心象、言い回しも、そのまま今でもいけそうな気がします。特に、「ピチピチした若い女」という表現が出てきたのには驚きました。サナトリウムとか、焼け跡闇市からはイメージできないもので、とても、昭和20年10月から河北に連載された新聞小説の文章、とは思えませんでした。