司馬 遼太郎 の短編集「馬上少年過ぐ (新潮文庫) / 司馬 遼太郎 (著)」を読みました。
武将から、下級武士、偽武士まで、侍の機微・生き様を描いた珠玉7編の作品集です。
中でも、伊達政宗の生涯を短くまとめながら、その伝説に秘められた周囲の人間とかかわりを描いた表題作と、伊達家の分家宇和島藩の、さらに分家である吉田藩で、一介の町医者から家老に上り詰めた人物を描く、「重庵の日々」が興味深いです。以下ネタばれあり。
「馬上少年過ぐ」では、政宗の、隻眼と母親に疎んじられたコンプレックスと、それを打ち破るための乳母の伝説作りという推理が出てきます。
また、政宗をして、東北の片隅の藩の維持だけなく、天下取りや遠くヨーロッパに目を向けさせたのは、野望を持った自由人、片倉小十郎の影響ではないか、という面白い説がでてきます。
そして何より、皮肉のきつい司馬先生が、激しさを持った武将にして、漢籍をものにする文人でもある政宗には、好意的な描き方をしている点が、何かうれしいですね。
尚、「馬上少年過ぐ」は老境の政宗が詠った漢詩の一節です。織田信長の「下天は夢か」と対比してみると面白いかも。
「重庵の日々」では、太平の世では、才能を持つことは罪であったと、高度成長時代のサラリーマンに対して、皮肉のような表現をまじえつつ、あまりの急進的な改革で、医者から成り上がった家老が、失脚させられるまでを描いています。さらには、いわば総本家仙台伊達藩と、本家の宇和島藩、分家吉田藩の微妙な駆け引きも面白い。
いずれも、伊達藩に興味がある方には、興味深い本ではないでしょうか。