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食べることは守ること?「エゾシカは森の幸」を読む

エゾシカは森の幸―人・森・シカの共生 [単行本] / 大泰 司紀之, 平田 剛士 (著); 北海道新聞社 (刊)

マタギや熊、オオカミなどを題材にした熊谷達也
氏の小説を何冊が読んでいるせいで、人間と自然の共生については、俗説に流されて情緒的になるのではなく、生き物の生態を科学的に分析して、人間の欲望との折り合いつけるという事が大事である、と少しは理解するようになってきました。

そんなところで、北海道の友人から薦められたのが、『「エゾシカは森の幸」人・森・シカの共生 』(bk1)という本。大泰司 紀之、平田 剛士著、北海道新聞社刊。1575円。(アマゾンはこちら

この本の主張を一言で言えば、推計60万頭にも激増したエゾシカと共生していくには、一定数に抑えて、「益獣」とするために、食べたり、皮を利用したりしましょう、というもの。「食べることはまもること」と言われても、一見するとショッキングな見出しです。


本書によれば、生後一年で繁殖能力を持ち、天敵のオオカミが絶滅しているエゾシカは、全道的な調査と統計学的手法によって、60万頭が北海道に生息していると推計され、毎年9万頭を捕獲しても、尚増え続けているということです。

そのため、エゾシカの交通事故、列車事故が年間3000件、事故死するシカが900頭に上るだけでなく、人間の方も、とばっちりで死者が出ているそうです。そして、農林業の被害も50億という、のっぴきならない状況に至っているそうです。

第1章 21世紀エゾシカ事情
第2章 ヒトとエゾシカの長ーい共生史
第3章 科学で解明!エゾシカのエコロジー
第4章 ディア・ハンターという生き方
第5章 生物多様性を守るための新技術
第6章 エゾシカをいただきます!
第7章 エゾシカとの共生新時代へ
エゾシカデータベース

エゾシカは、ササなどの草を食べ尽くすと、木の皮や農作物と手当たり次第食べてしまうので、植生も変わってしまう。強力な繁殖力で激増し、食べつくしては激減する、ということを繰り返しているのが、エゾシカの習性のようですが、絶滅した天敵のニホンオオカミを大量に放つわけにもいかない。

そこで考えだされたのが、管理された狩猟による捕獲、肉の食用化、革の利用を図って、生息数を管理しながら、害獣から益獣とするということ。

地方の特産物、観光資源ということになれば、取り過ぎて絶滅させるわけにはいかない。そして、家畜化するのではなく、生息可能な数に押さえることで、天然資源とするという提案がされています。

エゾシカの肉は、脂肪分が少なく、鉄分は多くヘルシーな食品だそうです。また、雑草だけで3年で100キロにも成長するので、適正な数なら効率が良く、海外から高い飼料を輸入して苦労して育てる手間も要りません。

北海道では、道庁内にエゾシカの管理に関する部門もあり、衛生的な処理の仕方、料理法なども開発されて、デパートでもシカ肉を販売するまでになったそうです。

また革についても、奈良正倉院の時代からの伝統で、丈夫で美しいものとして日本では珍重されてきたので、伝統革技法の復活での活用なども将来的な取り組みとして面白いのではないか、ということでした。

自然との共生といった時、必ず人間の欲望との兼ね合いが出てきます。食欲だけでなく、経済の欲、自然のためになっていない事なのに、いい事をしていると勘違いする欲。しかし、人間である以上、それらの欲から完全に離れることはできません。

であるなら、動物の生態を科学的に調査し、人間の欲を、その動物の生存可能な枠内に収めることができれば、ベストではなくても、ベターな共生が可能になるのではないか、そんな事を考えさせられました。

尚、本書には、参考文献のほかに、エゾシカの生息数推計に関するデータ、肉の料理法から、狩猟に関する手続き、シカに道路で遭遇した時の運転の仕方まで、様々なデータベースが載っています。

ちなみに、雄雌とも1歳で繁殖可能になるエゾシカですが、5歳くらいの雄は、ハーレムを作って、一日に数十回も交尾し、10日でダウン。体重が3割減るまで子作りに励むそうです。「鹿並み」は絶対に無理ですね。

まじめな話に戻すと、エゾシカは肉食獣に食われる事を前提に、数がすぐ増えるようになったように想像するのですが、どうでしょうか。

尚、この本は、現時点では、アマゾンでは購入できませんのでbk1(3/31まで送料無料)などでどうぞ。

(追記)アマゾンでも取扱い再開となりました。⇒エゾシカは森の幸―人・森・シカの共生 [単行本] / 大泰 司紀之, 平田 剛士 (著); 北…