松崎有理著「代書屋ミクラ」を読む

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松崎有理著「代書屋ミクラ
」を読みました。

丁度今は、大学では、入学試験の2次願書受付とか、研究室では「かけんひ」なる予算執行・申請、論文の審査などがあって、本当の師走の時期なんでしょうね。

この本は、特に理系を目指す高校生や、これから論文に取りかかる学生、かつての学生さんにも読んでいただきたい本ですが、私のような文系人間にもなじみやすく、風刺と寅さん的人情味が混じった不思議な短編の連作集です。以下、ネタバレあり。


物語は、S台市にある総合大学のT北大学がモデルと思われる、北の街にある「蛸足大学」の理学部を卒業し、先輩のトキトーさんの勧めで、「論文の代書屋」稼業を始めたミクラ君の論文書きの奮闘と、恋の話。

なぜ、論文の代筆屋かというと、法律で、3年間に、所定数の論文を書き、格付けされた雑誌に掲載され、引用数が上がらなければ、即、教授でもクビになると制定されたから・・・?

論文書きに追われる研究者は、プロットとデータをそろえて、論文の執筆は「代書屋」のベテラン・トキトーさんや、新人だが、論文作成のノウハウは持っている、ミクラ君に代行させて、数をこなす、という設定です。

この辺は、どこまで現実を反映しているか、文系な上に、学生時代がはるか昔の人間には良く分かりませんが、昨今のなんでもかんでも費用対効果、数値目標に追われるセンセイ方に、エールを送っているようでもあります。

で、いくつかの助教、准教授、教授達の、いささか風変わりな研究テーマに、踊らされたり、のめりこんだりしながら、論文代書に励むミクラ君は、仕事の合間には、いろいろな女性に惚れるのですが、毎度、告白する以前に振られるという、フーテンの寅さんのような、切ない展開。

恋焦がれても、結局は、八萬町の下宿で、話相手はサボテンのみ。。。

時折、刻文丁で、ビールを飲みながら、イケメンでならしたトキトーさんに、恋のアドバイスをして貰うのですが、なかなかうまくいきません。

基礎研究を軽視して、実学に走る理科教育への批判とか、論文作成の基本の話や、データ解析の視点の解説も多少盛り込んでありますが、主題はいつしか、ミクラ君は、いつ、好きな女性と幸せになれるか、の方へ。。。

本当は逆で、ライトノベルのようなフリをして、世相への風刺・批判の方が主題とも思うのですが、物語の流れが自然で、ミクラ君の勘違いの恋の話も非常に面白く、楽しめました。

さて、作者の松崎有理さんは、T北大学の理学部を卒業して、研究所などで働いた後、現在はソフトウエア会社に勤務されてという、いわゆるリケジョ。「あがり (創元SF文庫)」で、第1回創元SF短編賞受賞を受賞したSF作家、という事になるでしょうが、本作を読むかぎり、将来、直木賞を取る小説家のような気がします。

理系、文系関係なく楽しませてくれるストーリーテラー。本作は、とりわけ「蛸足大学」の関係者は、読みながらニヤついてしまうことでしょう。

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