アニメ映画「この世界の片隅に」を観る。すずを抱きしめたい。

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口コミで人気が高まっている、長編アニメ映画、「この世界の片隅に」を観ました。こうの史代原作、片渕須直監督・脚本。

「シン・ゴジラ」、「君の名は。」も見ましたが、私的には、今年度No.1の映画だと思いました。左記2作が、めくるめくエンターテイメントを極めた傑作だとすれば、このアニメは、じわじわと、訴えてくる作品です。

主人公のすずが、けなげで、愛おしくて、映画に中に入っていって、「いいんだよ」と抱きしめたくなります。

さて、この映画も、結末の方を予め知ってしまうと、感動もいまいちになると思われますので、極力、ネタバレを避けながら感想を。無理かなw

主人公のすずの声は、「のん」こと、能年玲奈さんが担当。しかしながら、驚くほど、すずに同化して、言われなければ、彼女とは分からないほど、広島弁と語り口が自然で、嵌っています。

広島弁といっても地域性があるようなのですが、地元の方からも納得の出来のようです。それよりも、ストーリー全体をしっかり把握しての、キャラ作りは見事です。

昭和9年から20年にかけての広島と呉が舞台。

どこか、ぼーっとして、おっとりしたすずは、絵を書くのが大好き。同級生に好きな男子もいました。戦争前で、広島で生活は厳しくとも、平凡だけど、楽しい生活を送っていましたが、18歳で見染められて、呉へ嫁いでいきます。

呉といば、日本海軍の軍港拠点。そこで、戦争が進むにつれて、食料不足、空襲などに脅かされながらも、嫁ぎ先で懸命に、新しい家族のために働くすずでしたが。。。

おっとりしてて、働き者のすずは、どこかほのぼのとしていて、回りに笑顔をもたらしていたのですが、戦争は、そのすずから、笑顔も、色々なものを、奪っていきます。

なぜ、ふつうに、懸命に生きてるだけなのに。すずが、すずでなくなってしまう。
日本昔ばなしのような、ほのぼのしとした前半から、次第に戦時下の厳しい生活、そして戦火で焼き尽くされる呉の街。さらに広島には新型爆弾。ふつうの人から、色々なもの、命、希望を奪い尽くすのが戦争。

あのすずは、いったい何処へ行ってしまうのでしょうか。。。

さて、この映画の深さを知るには、多少戦時中の状況ついての理解があると入っていけます。私は、たまたま字幕付きの回で観たので、漢字で分かりやすかったのですが、「入湯上陸」(にゅうとうじょうりく)という言葉が、後半に出てきます。

 
これはググってみると、海軍の軍人が入港した時に、港の近くで、一泊だけできる休暇の事のようです。

すずの幼馴染の水兵が、すずの嫁ぎ先である呉の家に、この休暇だと言って、突然やってきます。

勿論、嫁ぎ先の家族は初対面。軍港から近くに知り合いがいた、という説明がありますが、軍人最優先の時代にあって、そういう場合もあったのでしょうね。

この休暇は、単に風呂に入って疲れを癒すというより、日ごろ戦艦の中で長く暮らす兵士にとって、遊郭などに繰り出すのを、黙認するような制度だったのではないでしょうか。あとは、映画を見て、登場人物の行動の意味を、じっくりと考えて下さい。

あと、広島に「新型爆弾」が落とされた、という話も出てきますが、これは御存知、原爆投下のことですね。一瞬にして数万人の人が溶けたり、焼け死んだだけでなく、生き残った人も、皮膚が焼けただれり、様々な後遺症で苦しめられる兵器です。
 
一方、軍港だった呉は、原爆ではなく焼夷弾(殺傷するだけでなく、火事で家屋を破壊して戦意を奪う)などによる空襲で、毎日のように苦しめられます。日本は資源が無く疲弊し、防御はほとんど無し。そこに、累計16万発もの爆弾が落とされたという事です。街はどうなるかわかりますね。

ただし、このアニメ映画は、〇〇映画というレッテルを貼るより、すずのけなげさに、ただ浸るだけでもいい。いろいろなものを奪われたのは、なぜか考えるだけでも。静かに、しかし、はっきりと、人間の生き方とか、希望について語る映画です。

いろいろなシーンがありますが、最後まで、目を逸らさずに見てほしい。希望の光は、あります。

絵柄のやさしい色合いと、生生しい戦時下の現実。監督は、詳細に時代考証したとのことで、アニメならではのファンタジーのような描き方や、ユーモアを混ぜながらも、リアリティを持たせています。そう、これは70年前に、現実に日本であった事を基にしているのです。

是非カップルで見て頂きたいですね。どういう感想を持つかで、家族とか、人に対する考え方の違いや、共通点が分かる映画だと思います。そして語りたくなります。

仙台では、JR仙台駅東口のチネ・ラヴィータと、109シネマズ富谷で上映中です。2時間6分。

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