2019年の米アカデミー賞作品賞を受賞した映画『グリーン・ブック』を見てきました。テーマが重く深いながらも、暗くなり過ぎずに、人間を良く描いた、とてもいい映画でした。
CMや予告編で、大筋が明かされていますが、60年代初頭、アメリカに露骨な人種差別が行われた頃に、黒人の教養ある天才ピアニストと、がさつではあるが、腕っぷしが強く、口先の巧いイタリア系の運転主兼用心棒が、南部を演奏旅行して行くという、実話に基づくお話です。以下、ネタバレあり。
まず、腕っぷしが強く、がさつで、こずるいところもある、主人公”トニー・リップ”の性格を、さまざな笑えるエピソードで描いていくのですが、この序盤がとてもいい。
もともとは、黒人嫌いで、金に、こすからい男ではありますが、実は家族思いで、やさしさも持ち合わせていることが、分かってきます。
そんな男が、ナイトクラブの用心棒を失職し、金のために、あろうことか、嫌っていた黒人で、教養も金もある「ドクター」こと、著名ピアニストのドン・シャーリーと、南部の演奏旅行の運転手兼用心棒として、8週間の演奏旅行に、ほかのメンバーと共に出かけることになります。
出発前に、実話か、演出か、わかりませんが、ドクターがトニーを雇うために、トニーだけでなく、妻の方に、「ご主人は8週間も家を空けることになるが、いいですか」と電話をかけてくるエピソードがあります。妻はオッケーします。
これひとつで、ドクター、トニー、その妻の性格を理解できる、とてもいいシーンだと思います。
さて、演奏旅行に行くと、二人に行き違いがあったり、案の定、南部では、ケネディー大統領の前で演奏したピアニストとして紹介されながらも、様々な差別の有り様が、描かれていきます。
そしてドクターには、人種差別のほかに、アーティストとしての孤独、家族との別離、性癖や境遇による孤独と、痛々しいほどの悲しみを抱えていることがわかります。
演奏を一回聞いて「天才」だと才能は尊敬しながら、ストイックな言動に苛立っていたトニーですが、頑なドクターの内に潜む、こころの影を見て、少しずつ変わっていきます。
ラスト、映画の宣伝のように、「奇跡」があるとは思いませんが、ひょっとしたら、人種に関係なく分かり合えるはずだ、という希望が描かれます。
今でも、根深くある人種差別を、声高に訴えるのではなく、用心棒トニーの心の変化を通して、希望は捨てないでと、訴えかけてくる映画です。
あまり言ってしまうとあれですが、後半の方に、「君が演奏しろというなら弾くよ」というシーンあるのですが、ドクターが最も大切にしている価値よりも、あえて友を選ぼうとしたシーンに、ぐっと来ました。
アカデミー賞の作品だからとって、じわじわ来るのは少ないですが、この作品は違いました。見る価値あります。
監督・製作・共同脚本ピーター・ファレリー、主演(トニー)ヴィゴ・モーテンセン、(ドクター)マハーシャラ・アリ。
アカデミー作品賞に加え、マハーシャラ・アリが助演男優賞(2回目)、脚本賞にピーター・ファレリー、ニック・バレロンガ(トニーの実際の息子)、ブライアン・カーリー。
ヴィゴ・モーテンセンも凄く良かったです。