本ブログは[PR広告]が含まれています

映画『ケイコ 目を澄ませて』、人としての器量

映画『ケイコ 目を澄ませて』(三宅昌監督・脚本、酒井雅秋脚本)を見ました。

個性的なバイプレーヤーから、最近ではドラマの主役他多数の出演がある、女優、岸井ゆきのさんが、なんと聴覚障害のあるプロボクサー役を演ずるというので、おっという感じで映画館に向いました。

想像を超えるリアリティと、脇役陣の安定した演技、そして、16mmで撮影した都会の詩的な風景の映像が素晴らしく、非常に感銘を受けました。


ストーリーは、実在の聴覚障害を持つプロボクサーだった、小笠原恵子さんの著書「負けないで!」を原案とした、オリジナルストーリーとなっています。(以下多少ネタバレあり)

舞台は10年以上前。まもなく閉じる予定の、浅草にある老舗ボクシングジムで、女性プロボクサーとして試合に臨む、「ケイコ」と、周辺の人々のお話。

ハンディがありながらも、ひたむきにトレーナーの指示に従い、黙々と厳しい練習をこなすケイコですが、デビュー戦で勝利をしたものの、パンチも浴びて、「痛み」を覚えて、ボクシンを止めようかと、老会長(三浦友和)に、手紙を書くのですが、会長のある姿と見て、渡すことができず、再び練習を始めます。しかし・・・

予告編にも出ていますが、ジムの会長が聴覚障害のあるケイコについて、取材を受け、「才能はない。しかし、人としての器量がある」というのです。

これがキーワード。

別に、特別な才能があるとか、超人的な努力家というのではなく、とにかくボクシンが好きで、自分を鍛えに鍛え、プロレベルまで来た人。

バイト先では、ボクシングを始めた理由を、同僚にさらっと答えていますが、もっと深い理由がありそうです。が、それには映画では触れていません。この映画のテーマは、そこではないので。

愛想笑いも無い、ちょっと気難しかったり、人を寄せ付けないところがある一方、バイト先のホテルのリネンの仕事では、後輩の不器用な男子(聴者)にも、我慢強く教えたりします。

ハンディがどうとか、才能がどうとかよりも、人を前に進めるのは、人としての「器量」。

それは、特別なものじゃなく、誰にもあるはずなんですが、いつの間にか、すり減らして、生きてる、われわれ(失礼、わたくし)。

見どころの一つ、プロボクサーに見えるまで鍛えた、岸井さんの、ボクシングの練習シーン、試合でパンチを喰らうシーンがリアルで、素晴らしいです。

何せ、体重が少なすぎて、プロのリミットに至らないのを、増量しつつ、かつ、ぜい肉をつけずにボクサー的な体にするという、過酷な準備をクリアして、本番に臨んでいるそうで、なんちゃって演技ではないのです。

また、同居している、軟派なミュージシャン志望の弟(佐藤緋美)とのやり取りもいい。

姉のハンディを理解しているが故に、喧嘩もする。

でも、孤高になろうとする姉に、近づこうとして、ちょっとボクシングをやるシーンはぐっときますね。

あと、三浦友和演じる、老会長の背中の演技(終盤でてきます)も魅せる。逆光の撮影もいいす。

でも、わたくし的に好きなシーンは、ボクシングを続けるか迷っているケイコの前に、練習場の河原で、対戦相手だった選手が偶然通りかかり、作業服を着て挨拶に来るシーン。

同じ、女性プロボクサーで、生活のために、作業員としてバイトしているのが分かり、みんなも苦労してるんだなと、「仲間」がいるな、とケイコの顔が、少し緩むんだような気がしました。

また、二人のトレーナーの内、小柄な松本役の松浦慎一郎は、実際のトレーナーですが、大柄な林役の三浦誠巳も鋭いパンチで、本物のボクサー上がりかと思える仕上がりぶり。

いろいろ、だらだらと書いてしまいましたが、これは見ておくべきく映画だと思います。元気出ます。

尚、この映画は、第77回毎日映画コンクールの大賞、監督賞、主演女優賞、撮影賞(月永雄太)、録音賞(川井崇満)、第46回日本アカデミー賞の、優秀主演女優賞を受賞しています(多分、最優秀主演女優賞かと。3/10発表)。

仙台では、北四番丁のフォーラム仙台で、少なくとも2月2日までは上映(日本語字幕付き)。