松崎有理著『就職相談員蛇足軒の生活と意見 – 』を読みました。「代書屋ミクラ 」の線を、さらに面白くした楽しめる本です。
著者本人も、仙台によく似た北の街にある、蛸足大学の理学部出身ので泣くも黙るリケジョ。本作を「ライトSF」とおっしゃっていますが、SFの要素は、本線ではないですね。
この本の各章は、20代女性向けの「小説屋sari‐sari」」に連載された(後半2編は書き下ろし)連作で、博士課程を出ても就職探しに苦労するリケジョ「シーノ」の話から始まり、近未来を舞台としながら、なにか昭和なムードを感じさせる人物が出てきます。以下ネタバレあり。
主人公シーノは、架須賀町から毎日職安通い。一般受けしない研究テーマが災いして、希望の研究職にありつけないばかりか、いわゆる学歴が邪魔して一般会社も無理、その上訥弁でアピールも苦手。さらに、近未来では、定年が85歳、老人が研究職を占拠して、若者が職につくのは困難・・・そこまで言う、早見優。
しかし、そんなシーノに、無口大歓迎のアルバイト先が見つかります。嘘道師範にして、特殊就職相談員・蛇足軒の秘書。蛇足軒は、とうてい普通の職安では解決できない、特殊な求職者の就職を、恐るべきこじつけで、次々解決していく男。合言葉は「人は誰でも就職できる。」
どんな求職者かは、読んでのお楽しみ。「ふつうでない人」をどう、ふつうの職場に当てはめるか。近未来を借りて、リケジョ、ポスドクの就職難に毒を吐きながら、ところどころで笑いを取る著者のセンスがいいすね。
最後の2章は書き下ろしで、心理学博士号を持つ、お掃除ロボットの悩みの相談という、SFを意識した内容。他とは少し違うムードになっていますが、様々なロボット映画を思い出させる展開ながら、最後は少し青春風に。。。甘いかな。
ところで、著者は、4年も前に、科学論文の代筆屋稼業と、「トンデモ系」学者のクライアントという、誰かに教えてあげたいような、おもろい話を書いているのですが、今話題の学者さんの話を、著者流にパロって書いて貰いたいと思っているのですが。倫理的な話でなく。いつか。
『就職相談員蛇足軒の生活と意見 – 』収録作
「懇切、ていねい、秘密厳守」「かなしき食料難」 「三秒の壁 」「人工の心 」「博士浪人どこへゆく」