今年は阪神・淡路大震災から30年ということで、特集報道が多いですが、Eテレの番組で、この本、安克昌著『心の傷を癒すということ―大災害と心のケア (新増補版)』を知り、読みました。
非常に感銘を受け、同時に、実用的な意味を感じました。
非常持ち出し袋と同じ位、災害の備えとして、各地の住民はもとより、災害対策にあたる公務員、消防・医療他救助要員、ボランティアの方すべてに、基本の書として読んで頂きたいです。
著者の安克昌さんは、神戸大学病院の精神科の医師として、35歳の時、1995年の阪神・神戸大震災で、自身も被災しながら、現地でここの医療ケアにあたり、その生々しい体験ルポを、一か月後から産経新聞に連載したものを、書籍化したのが、この本です。
通常の報道では表に出てこない、被災者のこころ内面、さらに治療が必要なまでに、悩み苦しむ事例が、抑えた筆致で描かれているほか、今後の災害における、心のケアの課題を提言されています。
自身が被災されていることで、被災直後の躁状態や、外からの提言への「否認」など、誰にでも起こる事が、がわかりやすく書かれています。
そして、この地震で認知されたPTSDの症状。
さらに、救助、医療要員の場合でも、通常とは違う精神状態で苦しんでいるなど、おそらく大災害の度に繰り返される事態も、生々しく書いてあるので、今後のためには、読んでおくことで、なにがしかの役に立つでしょう。
怪我やはっきりとわかる病気と違い、災害時のこころの問題は、当事者がその気持ちを、外に出すのを押し殺してしまうので、分かり難くなる、というのがひとつのポイント。
また、大きなショックの前に、これまで通院するほど病んでいた人が、一時的に、直ったかのように生活・活動し、落ち着いてくると、またぶり返すといった事例。
さらに、これまで、家族や地域の見守りで、顕在化していなかった、元々あって抑えられていた、こころの問題が、災害の喧噪の中で一気に噴き出すといった事態など、予め知っているのと、知らないとでは、まるで違う心構えになります。
インフラの復旧、住まいや経済の問題も、勿論、大事ですが、外見的な事がいろいろ揃っても、こころの問題が解決しなけれな、その人とって、いつまでも、重いものを抱えたままになるでしょう。
元に戻すことはできない。だが、新たに道を進むことはできる。
それは理想。
ただし、それは、ひとによって時間の差が大きいし、一様にはいかない。
まずは、抱えたものを安心して吐き出せる場、同じ痛みを抱える人同士が語り合える場が必要と、力説されています。
そして、最も重要な点として、こころが沈んでいる人に、アドバイスや反論は不要で、ただ傾聴することが大事と言われていますが、これが中々難しい。
最初の本は、1996年に、第18回サントリー学芸賞受賞となったほか、ドラマにもなっていましたね。
残念ながら、安先生は、震災の5年後にガンで早逝され、貴重な意見を窺うことはもうできませんが、「新増補版」とあるように、元本に、新聞連載以外のエッセイや論文を加え、同僚や、仲間の医師の方が、東日本大震災の事にも触れながら、寄稿された本となっています。
30年を経ても出版が続いていますが、絶版になる可能性もなくはないので、各図書館に1冊は備えて欲しいところです。また、今後できる防災庁の方には、全員必読として欲しいですね。