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熊谷達也著「烈風のレクイエム」を読む

熊谷達也著「烈風のレクイエム」を読みました。

昭和のはじめに函館を襲った3つも大きな「災害」。昭和9年の大火災、20年の大空襲、そして29年の青函連絡船「洞爺丸」の転覆事故、全てに遭遇しながら、九死に一生を得て、家族と共に、時に迷い、絶望しながら、時に助け合いながら、生き抜いていく男とその「家族」の物語です。

東日本大震災を意識して書かれたのではないかと思われますが、きれい事だけだけでなく、苦悩や迷い、怒り、恐れ、そして小さい子供の、生き抜くための悲しい嘘など、災害と人のありようを、災害の生々しい背景の中に描いていきます。

以下、ネタバレあり。

昭和の初め、27歳で父の跡を継いで潜水夫となった敬介は、ベテランの船頭からも信頼される船主となっていました。そんな昭和9年、函館の街を焼き尽くす大火災に巻き込まれ、家と母親、そして最愛の妻と娘を亡くします。

しかし、その時、助けた男の子とその母親と、避難生活の混乱のあと、寄寓にも再会し、再び二人を救う事件があって、家族を失った同士ということもあって、所帯を持つこととなります。

新しい家族の元で、妻との間に子供も授かり、再び幸せを感じるようになった頃、今度は戦争が始まり、昭和20年の終戦直前に、大空襲で妻子を助けに行く途中、爆撃で被弾、自分が大怪我。しかも大事な船も失います。

ほとんど働けない状態の中、なんとか潜水夫の雇い人達の協力で終戦まで生き抜くものの、予科練に行っていた「義理」の息子は、過酷な訓練の中、性格が変わってしまっていました。

思うように動かない体と息子の変貌に、失意の中にいた敬介ですが、息子が家を出る前に、調達して残していった潜水服で、戦後の混乱期を乗り切って、再び事業を軌道に乗せていきます。

それから10年あまりたって、所在不明だった息子が、こころ穏やかになり、秋田から婚約者をつれで函館に帰ってきます。

そして数奇な運命で、血のつながらない家族が、別のつながりがあることが分かるのですが、敬介と妻のルーツの東北へ行くために、4人で乗船したのが、あの「洞爺丸」でした・・・・。

著者は、函館で実際にあった3つの大災害にすべてに、ひとりの男を立ち合わせて、その都度、潜水夫として培った冷静な判断力で、ギリギリのところで自分を制しながら、生き抜きさせ、人との絆の力で、どん底から這い上がらせます。

しかし一方、豪胆さの影で、最初の妻や娘を助けられなかった自分に対するいらだち、そして体が不自由になった時の苦悩。そして、義理の息子の思わぬ告白。

災害シーン3つの描写だけでも、不謹慎な表現ながら、パニック映画3本分の迫力があり、さらには主人公と家族のこころの動きが切なく、そしてやさしく描かれていて、一気に読みたくなる本です。

最後2ページに、函館の災害を通して、生き残ったもののやるべき事はと、静かに語られます。これは、けっして上から目線でも評論家でもない。あの震災の後の虚脱感に悩む方、それ以外でも、いろいろな悩みを持つ方への著者なりのメッセージでしょう。

初出は、「小説新潮」2011年9-12月号に「海峡の絆」として連載。

熊谷達也 著 『烈風のレクイエム』   [PR]
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電子書籍:Kindle      
発行:2013/02/22 出版社:新潮社 紙価格:1890円
ジャンル: 形態:単行本