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「それでも三月は、また」を読む

震災と原発をテーマにした、谷川俊太郎、村上龍、佐伯一麦他17名の詩人・小説家によるアンソロジー、「それでも三月は、また」を読みました。

小説家の方の中には、わざわざ「東日本大震災関連の事は書かない」と宣言される人もいます。勿論、どのようなスタンスで、この事象にかかわるかは、他人がとやかくいう問題ではないですが、そういう方にまず、この本を読んでいただきたい。

同業者の方は、どのように震災を捉えて、どう表現しているか、純粋に文学表現として興味深いものになっているはずです。


はっきりいって、感動秘話でなければならないとか、声高に誰かに糾弾しなければならない、という「世間体」にとらわれている作家はひとりも、この本には出てきません。

それぞれの表現で、直接的な糾弾より厳しく、感動秘話より切なく、物語が作られていることに、とても感動しました。

「仙台在住小説家」の中では、佐伯一麦氏は「日和山」という、避難所にいる友人との会話の短編を発表していますが、とても淡々とやりとりを描いています。

宮城県の被災地の人間なら、このタイトルだけで、もういろんなものを連想してしまいますが、そういうものを拭って、実に淡々と会話を描きながら、佐伯氏は最後の子供一言に、様々な想いを集約させています。けっして、お涙頂戴ではないが、こころ突かれる作品です。

そのほか、被災地以外の人間の葛藤とか、関東大震災を題材にしたもの、ファンタジー、実に多彩な内容となっています。

そして冒頭に出てくる多和田氏の作品「不死の島」は、近未来小説となっていて、もしかすると、被災者の方には刺激が強いかもしれませんが、メッセージが強く伝わるもので、強く印象に残るものでした。まだ、気持ちの整理の付かない方は少し、時が経ってから読むと、いいかもしれません。

この本が、チャリティを兼ねているという事より、詩人、小説家の方が、この震災に、それぞれの見方で向き合い、作品を発表してくれた、その事自体に、私は、とても感動をおぼえました。

作品一覧:
「言葉」 谷川俊太郎
「不死の島」 多和田葉子
「おまじない」 重松清
「夜泣き帽子」 小川洋子
「神様2011」 川上弘美
「三月の毛糸 」川上未映子
「ルル」 いしいしんじ
「一年後」 J.D.マクラッチー著 ジェフリー・アングルス訳
「美しい祖母の聖書」 池澤夏樹
「ピース」 角田光代
「十六年後に泊まる」 古川日出男
「箱のはなし」 明川哲也
「漁師の小舟で見た夢」 バリー・ユアグロー著 柴田元幸訳
「日和山」 佐伯一麦
「RIDE ON TIME」 阿部和重著
「ユーカリの小さな葉」 村上龍著
「惨事のあと、惨事のまえ」 デイヴィッド・ピース著 山辺弦訳

佐伯一麦 著 『それでも三月は、また』   [PR]
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電子書籍:      
発行:2012/02/25 出版社:講談社 紙価格:1680円
ジャンル:ノンフィクション 形態:アンソロジー