佐伯一麦著「光の闇」を読みました。
扶桑社の文芸雑誌「en-taxi」に5年に渡って発表されてきた、連作短編集。
「欠損感覚」というテーマの下に書かれた「鏡の話/水色の天井/髭の声/香魚/……奥新川。面白山高原。/空に刻む/光の闇/二十六夜待ち」の全八章。以下ネタバレあり。
視覚障害の夫婦、義足の女性、声帯を失った作家、嗅覚障害を患った寿司屋のおかみさん、盲学校の先生、聴覚障害者、そして記憶を失った板前さんが登場してきます。
最後の一遍を除き、アスベストによる障害を持つ著者がインタビューしていく私小説というか、ドキュメンタリーのように描写されています。その中で、障害を持つ人と周囲の人との微妙な空気感とか、家族の愛情を柔らかに表現している、という印象です。
障害があっても工夫や訓練でふつうに暮らしていくるのだから、あんまり特別扱いしなくていいと、淡々と明るく語られることに意外な感を覚える方もいるでしょう。
それぞれの話しには直接関連はありませんが、最後の一遍だけは創作のような気がします。
記憶をなくした謎の板前と恋に落ちた、30代女性の「記憶が戻ったら」と恐れる、なんとも切ないこころの動き。
この話をすんなり落とすために、それまでの7編を書いてきた、というわけではないと思うですが。。。表紙の暗い色調に恐れずに読んでいただきたいです。
尚、著者自身による第一話の朗読音声ファイルが公開されています。