佐伯一麦著の長編小説『山海記』を読みました。
私小説家と言われる著者ですが、東日本大震災以降、水害の地を訪ね歩き、地誌を調べる旅と、旧友の死、自身の病気の告白と、なかなかに重い内容です。
他作品をあまり読んでいないので、何故、その旅に出ているのかが、良く分からず、延々と続く、十津川村界隈の地誌、歴史の解説の文章で、立ち止まってしまいました。
元々は、文芸誌に連載されていた作品なので、毎回、それなりの区切りがあったのでしょうが、この本ではあえて、章立てしていないようです。
地誌の詳細な解説と、バスの旅と、カットインされる旧友の死のエピソードのつながり具合が、個人的には厳しかったです。
逆に地誌、歴史に興味がある方には、引かれるものがあるのかもしれません。
様々な作品で吐露されている、著者の病気の解説もなかなかに重く、加えて、旧友の死の陰が、旅先での地元に人との語らいの穏やかさを、すっかり飛ばしてしまうように感じました。
それ自体が、心情の表現なのかもしれませんね。
もっとも、著者の研究者の方にとっては、精神史を追う中で、見逃せないない作品になっていると思います。