佐藤厚志著、『荒地の家族』を読みました。
仙台出身の著者が、仙台市南部の沿岸の街、亘理(わたり)町を舞台にしたということで、震災について書かれた小説という事になっています。
もちろん、主人公の40歳の植木職人は、亘理町逢隈(おおくま)にすんでおり、震災で商売道具や家を失い、主人公の幼馴染も、震災で妻子を無くし、主人公との関係にも深い影を落としていくるわけですが、もっと普遍的な、人生に影響する様々な事象のひとつとして、震災を取り上げているのではないでしょうか。
著者が、震災を「災厄」、津波を「海の盛り上がり」と敢えて表現しているも、その辺ではないかと。以下、多少ネタバレあり。
主人公は、最初の勤め先で、上司からイジメを受けたりしながらも、ようやく植木職人として独立、ひとり親方になったところで、大事な商売道具や家を津波で失います。
さらに、最初の妻は、小さい男の子を残して、震災の後1年で病死。
再婚した二番目の妻とは、ある事から、まったくこころが通わなくなり、離婚。
最初の妻との間の男の子を、実家の母と共に、懸命に育てようとするのですが、うまくいかない。
一方、幼馴染の友人は、震災で妻子を失っただけでなく、さまざまな事情から、自暴自棄になっていきます。
生きいる間に起こる様々な困難、災厄、人間関係の縺れ。
震災という稀有な事象だけでなく、どんな人にも起こりうる、苦難に、どう抗っていけるのか。
こうしたでき事だけ書いていくと、非常に陰惨な物語のようですが、ジモティーとしては、仙台弁に柔らかさ、父子を見守る周囲の人々の暖かさににほっとします。
そして、主人公の実直で、かつ、真面目するぎ故に、周囲が見えくなり、もがく生き様に、知らず知らずに、エールを送りながら、読んでしまいます。
震災にまつわる、真実のありようを書いた、というのも確かですが、誰にでもありうる災厄の中、市井の人の生き様を、描き出した物語であると思います。
尚、最初は、ラストが唐突な感じがするかもしれませんが、主人公は妻の幽霊を見たりしているので、自分的には、それもあるのかな、と思っています。