8人の作家によるアンソロジー短編集、集英社文庫「あの日、君と Boys」所載の伊坂幸太郎著「逆ソクラテス」を読みました。
少年と出会いをテーマに書かれた競作ですが、この伊坂作品では、小学生たちを主人公に、先入観で個人の価値を決め付けてくる教師に対する、子供たちの小さなレジスタンスを描いています。
同じことをやっても優等生に対しては肯定的に、そうでない草壁君には否定的に表現させて、ますます萎縮させてしまう教師。
その無自覚な態度をなんとか変えようと、頭のいい転校生安斎がいろいろな「イタズラ」を繰り出します。そして決め付けに対抗する決めゼリフが「俺は、そうは思わない」。
果たして、クラス内でも教師にも、自己評価も低い草壁君は、そう自分に、言い聞かせることができるようになるのでしょうか。
そして、その結果は。大人になって思いがけない結果をもたらします。また、その転校生安斎がなぜ、大人の先入観を変えることに拘ったのかも、主人公はやがて知ることになります。
伊坂作品にしては、あまり捻らずに、読後感が爽やかな「運命もの」。
子供時代を思い出して、あるあると共感しながら、ちょっとファンタジーのようなテイストも感じられる短編です。
尚、この作品だけが文庫のための書き下ろし。その他の作品は「すばる」や「文庫Web」が初出ですから、「集英社文庫創刊35周年記念の文庫オリジナル作品」というのはやや語弊があるような。ナツイチ制作委員会編。
掲載作品
伊坂幸太郎 「逆ソクラテス」
井上荒野 「骨」
奥田英朗 「夏のアルバム」
佐川光晴 「四本のラケット」
中村 航 「さよなら、ミネオ」
西加奈子 「ちょうどいい木切れ」
柳 広司 「すーぱー・すたじあむ」
山本幸久 「マニアの受難」