8月に出版された、伊集院静著『日傘を差す女』を読みました。
著者としては珍しい、旅情ミステリーというか、犯罪小説です。
謎解きよりも、映像が目に浮かぶような描写と、地域性、血筋、そして松本清張を彷彿とさせる「社会派」の要素もあり、390ページでも一気に読めます。
一応ミステリーの体裁なので、ネタバレは極力さけますがw、東京赤坂で起きた、捕鯨船の元砲手の初老の男の殺人事件から、さらなる連続殺人が起き、砲手の故郷、和歌山の太地、そして意外な港町がつながり・・と捜査担当の警視庁捜査一課の若手刑事を語り部に、話しが展開しています。
予め、伏線は示され、犯人捜しの謎解きより、被害者や犯人その関係者の背景描写の方に味わいがあります。
そして、著者の澱みない文章で、物語の世界にどんどん引き込まれると思います。
遠く離れた、地方の寒村の被害者たちが、不思議な縁でつながり、東京のど真ん中で、政治や花柳界と関わり、欲望の渦に取りこまれ、犯罪に巻き込まれていきます。
この小説は「オール讀物」に、2012年から2016年かけて、何回か掲載されたものを、単行本用に加筆修正したものですが、そのためか、ひとりひとりの被害者の描写が丹念に描かれています。
ただ、最後の謎解きは、少し急いで、紙数に収めた感が無くはないですが、全体にミステリー専門の小説家と変わらない流れで、読後感はすっきりです。
自分的には、映画にしたら、この人物は、どの役者にしたいな、などど想像しながら読めて、楽しかったです。