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熊谷達也著「潮の音、空の青、海の詩」を読む

熊谷達也著「潮の音、空の青、海の詩」を読みました。

東日本大震災と、東北の港町「仙河海市」(気仙沼市がモデル)での、若者たちの生き様をテーマに、著者が書いてきた一連の小説の完結編ともいうべき作品になっています。

この作品は、に2013年4月から仙台の地元紙、河北新報ほか地方紙に320回連載したものに、加筆修正とのこと。

以下、ネタバレあり。

30代の予備校講師、主人公の聡太が、仙台で被災するシーンから始まり、故郷の仙河海市に父母の消息を尋ね救援に行く「潮の音」編、震災の60年後の同市を描きながら、復興への提言とおぼしき「空の青」編、そして、再び時間を戻して、被災の数年後、聡太が、仲間と未来を模索しながら生きていく様の「海の詩」編で構成されています。

特に、「空の青」編は、「仙河海市」の巨大防潮堤への批判、放射性物質最終処分場を受け入れることでの資金調達と、原子力研究施設誘致の産業誘致、養殖センター、福祉充実のシルバータウンの設置などで、街に、仕事とついの住み家を提供というプランをSF的に描き、復興のアイデアを、落ち着いて考えて貰おうということのようですが、これまでの著作には無かった作風になっています。

理系出身の作者ではありますが、SF的な作品は、これくらいじゃないでしょうか。

メインのテーマとしては、遠洋漁業の漁労長の息子として、仙河海市で生まれ育ち、いったんは古里を捨てた主人公が、東京での失望、仙台での失業、震災を経て、同級生らとのかかわりの中で、再び古里で生きていくまでを描きます。

同級生や友達、恋人同士の微妙な関係の描写はさすがです。それと、あまり描かれることのない、仙台での被災の様子と住民の心持は、よく描かれています。

再び街を復興するためのもっとも重要な原点は何か、という作者なりの問いかけもあり。ただ、個人的には、提言的な部分も、SF的ではない方が良かったのではと思います。

さて、登場する人物は、これまでの仙河海市を舞台にした作品、『リアスの子』『微睡の海』と関連づけされているので、それらも踏まえて読むと、人物たちの関係の背景を、さらに深く味わうことができると思います。

尚、震災時の様子、沿岸の有様、肉親を捜す様など、被災者の方には、刺激的なリアルな描写もあります。そのあたりは読む前にご留意ください。

熊谷達也 著 『潮の音、空の青、海の詩』   [PR]
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電子書籍:      
発行:2015/7/24 出版社:NHK出版 紙価格:2,052円
ジャンル:純文学 形態:単行本