佐伯一麦著「還れぬ家」を読みました。
年老いた認知症の父親の介護の手伝いを、実家の母親から頼まれるようになった、末っ子の小説家の「私」とその妻。
「私」自身も、鬱や喘息を患っており、実家に父親の様子を見にいくこともできない状況もしばしば。それで、妻が代わりにいくが、進行する父親の症状に、嫁である「妻」にもストレスの症状がでてきます。
さらに、実家で懸命に父の介護をしていた母は、自身が病気で短期入院すると、施設に入った父と会うの嫌がるようになります。ここに至って「私」も覚悟を決めるのですが・・・
さらに、主人公の家族、父、母、兄、姉との何とも言えない「距離」と確執。そして子供のころのトラウマ。
いくら私小説家といっても、ここまで書いていいのか、という位、家族の間の、微妙な影をとことん書いています。多少はフィクションでないと、ヤバイのでは思ってしまいます。
認知症の介護、親との同居・不同居、看取り、親世代の「世間体」や価値観への反発、兄弟間のすれ違い、核家族など、一定の年代の方には、ひとごとでない話が詰まっています。
ただ、著者独特の文体によって、先の朝ドラのように、ただただ視聴者に緊張感を強いて、見るも嫌になるような話にならず、どこか、光が差しているように感じるのは私だけでしょうか。
440ページの大部。けっして軽い内容ではないですが、同じような体験を持つ方であれば、重苦しくなることもなく、共感と共に一気に読めるのではと思います。
ちなみに、著者も苦しかったのか、視点の変換がスムーズでなく、「父」「母」について「私」が語るところも、「義父」「義母」と嫁視線になっているところが一箇所ありました。
末尾には、物語の本筋とは少し別の話ですが、、東日本大震災の仙台の被災レポートも、主人公の「手記」として書いてあります。
2009年4月から2011年9月までの「新潮」に断続的に連載。