数々の天変地異に見舞われながら、ミチノクの人々はひたむきに生き、確かな文化や習俗を育んできた。西馬音内、黄金山、苗代島、遠野郷――生まれ育った仙台で執筆を続けてきた私小説作家が辿る、現代の「おくのほそ道」。東北で生きる人々の人生の曲折を、還暦を迎えた自身のこれまでと重ね合わせて描く、九つの紀行小説集。
小説家である「私」が、妻同伴やひとりでコロナの時期前後に巡った、東北「ミチノク」の9ヵ所を題材にしたエッセー風の紀行小説。
訪れたのは、西馬音内、貞山堀、飛島、大年寺山、黄金山、月山道、苗代島、会津磐梯山、遠野郷。
このうち、大年寺山は、「私」が住んでる近所の公園などを散歩する作品です。
『遠野物語』や『奧の細道』など、主に文学上の東北ゆかりの地を巡る短編集ですが、地誌や歴史の記述がかなり多目で、一見、小説というより地域ガイドの風でもあります。
しかし、連作を読んでいくと、亡くなった友人・知人との関わり、思い出が多く挿入され、文学との関わりのある東北の地を訪れながら、故人たちの死について、改めて、思い出しながら描く作品が多くなっています。
これまで、「わたくし」との、濃密な人間関係を中心に書いた小説が多かった筆者が、最近は、人と地域の歴史、風土との関わりの方に、視点を移している気がしますね。
昔の作品では、会話や、かな文字が多かったのが、歴史、地誌を丹念に記すので、字面に漢字が多くなって、見た目では、別の作家のようです。