佐藤厚志著『象の皮膚』を読みました。
アトピーの症状に悩み、差別を受けて孤独だった女性が、職場の中で、次第に自立に向かうお話。
病気にまつわる偏見・差別の言葉と、主人公の職場に現れる、クレーマー達の鮮烈な描写に、たじろぎながら、最後、ぎりぎりの解放感で、非常に心揺さぶられる作品です。以下、ネタバレあり。
初出は新潮2021年4月号。
主人公の五十嵐凛は、うまれつきのアトピーに悩む女の子。
病気の症状で、アザ、掻いた後などが体中に現れ、小さい頃から、あろうことか、親、兄弟からも、嫌みを言われて育つ。
この辺の描写は、SDGsの今日では「ありえない」と思う方も多いと思いますが、時代設定の10年以上前では、少ながらずありえたと思います。それにしても、親の言葉がひどい。
さらに、中高になると、体を見せたくない水泳の授業で、仮病で装うしかなく、体育教師からも「体罰」的なランニングをさせられます。
小中高はこころを閉ざして、ひとりで過ごす凛。
それでも、仙台の書店に就職して、勤務するようなると、個性的というか、癖のある同僚の中で、それなりの戦力となり、自分に自信がつくようになります。
ただ、一方で、書店に沸いてくる、変態、クレーマーの対応で、また苦労。
いいたい事は山ほどあるけど、自動販売機のように、淡々と仕事。
そこに、震災が起きて。。。
病気にまつわる不条理、仕事にまつわる理不尽、そして震災。どんな人生になってしまうのか、という所で、ひとつの解放。
アトピーについては、著者も丹念に取材したかと思うのですが、読む側に経験がなくても、かなり想像できる、ほんとうに堪らない描写です。
就職してからの書店の日常は、著者の書店勤務の経験も元になっているのでしょうが、時々現れる「招かざる客」、変態、クレーマー氏の面々も、リアルっぽくて、グロいですね。
学生時代の周囲の人物像は、かなり極端ですが、就職してからの同僚、上司や、オタク仲間、取引先との、やりとりは、変化があって面白いです。
ラストシーンはどう見るかですが、深刻なテーマを扱いながら、どこか楽天的でもあり、そこまで構えなくても読める本だと思います。
各プラットフォームから、紙版、電子書籍版とも発売中。ほとんどは1,650円ですが、Kindleは1,485円、AppleBooksは、1,700円。