山野辺太郎著『大観音の傾き』を読む

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仙台在住の小説家ではありませんが、山野辺太郎著『大観音の傾き』を読みました。

河北新報日曜版に、2024年4月から9月された、新聞小説を加筆修正して単行本化した作品。明記されてませんが、明らかに仙台がモデルですね。

表題の通り、仙台市民なら誰でも知っている、巨大観音像の「傾き」対策の担当となった、市役所の新人公務員が、主人公。

震災の非当事者としての心境、観音像問題を通して知り合った、震災で家族を失った方との交流から、ファンタジーな展開も絡めて、新たな生き方を得ていくという、ちょっと説明しにくい話。

巨大観音像が傾いているのでは?の、発端から、震災がらみの心のありように展開。さらに、観音像に大仏像も加わって驚きの展開が待っています。

リアルとファンタジーが、ない混ぜになった、なんとも不思議な読後感の作品ですが、仙台の住民からすると、違和感はありません。

震災がらみの話を殺伐とさせずに、暖かく終わらせようという気持ちは伝わってきます。

元は新聞連載小説ですが、170ページくらいなので、一日で読める分量です。


著者は、福島県生まれで、主人公のように、転勤族の家庭の方のようですが、仙台にも一時在住し、仙台二高、東大出身。現在は東京で教科書会社に勤めてながら?小説を書いているようです。


ところで、アニメ『すずめの戸締り』でもありましたが、震災の当事者の、うしろめたいような複雑な心境と、それからの解放が、さまざな作品で表現されています。

大多数の人は、非当事者ですし、消化しきれない感情があるのでしょう。

被災者からすると、そういう感情の存在への気づきになる一方、何か、もどかしいところもあります。

事実は小説を超えて、とても文章にできないような事も多々あるので、当事者の方自身が、小説の形で書くには、まだまだ時間が必要かもしれませんが、いつかは、そういう小説も出てきて、受け止められる日が来る事を望みたいと思います。

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