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熊谷達也著「希望の海 仙河海叙景」を読む

熊谷達也著「希望の海 仙河海叙景」を読みました。

2013年から『小説すばる』等に掲載された9つの短編を加筆・修正。連作の形になっています。

「東日本大震災により失われた日常と、得るべき希望。東北の港町に生きる人々の姿を通して描く、再生の物語全9編」とのキャッチがついていますが、熊谷ファンの方なら、著者が中学教員時代を過ごした気仙沼がモデルで、震災前に書かれた「仙河海市」シリーズの、各登場人物のスピンオフでもある事が分かると思います。以下ネタバレあり。

「リアスのランナー」、「冷蔵家族」、「壊れる羅針盤」、「パブリックな憂鬱」、「永久なる湊」、「リベンジ」、「卒業前夜」、「ラッツォクの灯」、「希望のランナー」の9編を収録。

前7編は、震災前までの、同じ中学校出身の登場人物と周辺の人々の葛藤や、暮らしぶりが描かれます。

最後の2編は、震災後の仮設住宅に暮らす二人の男女の、それぞれの思いと暮らしぶりを描くのですが、特に「ラッツォクの灯」は、親を亡くした兄妹の互いの思いやりが描かれ、被災地に住む人間には、こころに響くものがあります。

震災の事を書くことをためらう作家も多いのですが、この港町にとりわけ思いがある著者が、ファンタジーのような、悲しいけれど暖かい物語を書いてくれました。

連作の最初と最後に登場する、元陸上選手の女性が、再び街を走り出すシーンは、希望への前進を象徴させているようで、映画のワンカットようです。

生々しい地震や津波のシーンは出てきません。震災前に書かれた「リアスの子」や「微睡みの海」と合わせて読むと、味わい深いでしょう。

熊谷達也 著 『希望の海 仙河海叙景』   [PR]
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電子書籍:      
発行:2016/3/4 出版社:集英社 紙価格:1944円
ジャンル:純文学 形態:単行本